三橋 ゆか里
ITライター・編集者
小学6年生から高校卒業までをNY で過ごす。
大学卒業後ECサイト運営会社やウェブ制作会社などを経て、フリーのライターに。個人ブログ「TechDoll.jp」は、海外の注目サービスを紹介して人気に。2010年公開の映画『ソーシャ ル・ネットワーク』の字幕・吹き替えの監修も務めた。 現在は『Mac Fan』や『クーリエ・ジャポン』などで連載中。
ITベンチャー業界特有の英語表現を学んでみよう!
言葉は、時代を象徴するもの。『オックスフォード英語辞典』には、改訂の際に1,000 語もの新しい単語が加わることがあるそうです。私たちの生活にインターネットが根付いた今、その周辺で新しい言葉が次々に誕生しています。「いいね!」や「ツイート」といった身近なIT 用語より少し上級の、IT ベンチャー業界に特有の言葉をご紹介します。
“Acqui-hire”
It was our talented team of people that they were after; it was an acqui-hire.
(彼らが欲しかったのは、僕たちの優秀なチームだった。それは人材目的の買収だった)
“hire”(採用)という言葉が示すように、製品やその利用者を獲得する目的ではなく、ベンチャー企業の創業者や従業員(特に人材競争が激しいプログラマー)を獲得する目的で行われる企業買収のこと。買収先企業での勤務年数などの縛りが設けられるため、起業家にとっては「最後の手段」という見方が一般的です。
“Brogrammer”
I wouldn’t work there, it's a bunch of brogrammers who code and get drunk.
(僕ならあそこでは働かない。コーディングして酔っ払うだけのブログラマーばかりだから)
“bro” (兄弟)と “programmer”を組み合わせた造語。映画で描写される典型的な「ギークなプログラマー」は、ひょろっと細身でメガネをかけています。そのイメージとは反対に、ジムで鍛えた身体と社交的な印象を与える新種のプログラマーのこと。営業担当者と間違えてしまうような体育会系の雰囲気を持ちます。
“Bootstrap”
I’m going to use all my savings to bootstrap my startup.
(事業立ち上げに、僕は貯金の全てをつぎ込むつもりだ)
外部から資金を調達するのではなく、個人の貯蓄を資金に事業を立ち上げること。または、始めた事業の収益で運営していくこと。“Pull yourself up by your bootstraps”(ブーツのひもを引っ張って起き上がる)という「自力」を意味する表現に由来。急速な成長は難しいものの、創業者が事業を確実にコントロールできる利点があります。
“Ramen profitable”
Our goal is to become ramen profitable in six months.
(6カ月以内にラーメン代が稼げる状態を目指している)
ラーメン代を稼ぐだけの、つまり創業者の最低限の生活費をまかなうだけの収入がある状態のこと。この状態にたどり着けば、事業を存続させるために急いで資金調達せずとも、倒産することはありません。これは特に、開発や維持コストが下がっているソフトウェア事業に当てはまるやり方です。安価に手に入る食料品の例として、ラーメンが用いられています。
“Brain rape”
They want to steal our idea. This is a classic brain rape.
(彼らは僕たちのアイディアを奪おうとしている。これは典型的なブレイン・レイプだ)
例文は、シリコンバレーのベンチャー企業の実情を描いた、HBO の人気TVシリーズ『Silicon Valley』に登場するセリフです。Brain rape とは、大企業や投資会社が表向きは投資や事業のディスカッションを装い、裏ではベンチャー企業の技術や知的財産を盗もうと画策したりすることです。強者が、弱者をひそかに利用しようとすること。
“Unicorn”
Slack became a Unicorn in just eight months..
(Slack は、たった8カ月でユニコーンの仲間入りを果たした)
評価額が10億ドルを超えるITベンチャーのこと。Slackは、平均6年と言われる評価額10億ドルに至るまでの期間を、わずか8カ月で達成したビジネス向けチャットアプリ。Unicornという表現から派生した用語に、「死体」を意味する“corpse”との造語“ unicorpse”があります。一度ユニコーンに仲間入りした後に評価額が10億ドルを下回った企業のことです。