SPRING 2018仕事の転機をつかむ!!

Interview

自分を信じ、学び続けることで道は拓かれる
堀口 ミイナさん

堀口 ミイナさん

早稲田大学を卒業後、大学生憧れの商社で総合職として働いてからタレントに転身した才女、堀口ミイナさん。
自分のやりたいことのためには努力を惜しまず、新たなステージへの挑戦を楽しんでいる姿は、実にパワフル。
その原動力となっているのは、並々ならぬ好奇心だ。
人生の半分を海外で過ごしたことも、彼女に大きな影響をもたらしたようだ。
これまでの人生の岐路で、どのような選択をし、現在に至ったのだろうか。

トルコと日本の血を引く国際性豊かな少女時代

日本人の父とトルコ人の母の血を引き、エキゾチックな美貌が印象的な堀口ミイナさん。ここ1~2年、『しごとの基礎英語 Season5』(Eテレ)や『はやドキ!』 (TBS)など、メディアでの活躍の場を広げている、今注目の女性だ。生まれはトルコのイズミルで、小さいころから父親の赴任でパキスタン、東京、イスタンブールと転居を繰り返し、インターナショナルな生活を謳歌した。大学進学にもさまざまな選択肢はあったが、堀口さんが選んだのは日本の大学だった。

「自分のアイデンティティを大事にしたかったので、トルコか日本の大学に行きたかったんです。特に日本の文化にきちんと接してこなかったとの思いが強く、一度しっかり学ぶため、日本の大学を受験することにしました。1年間猛勉強し、おかげさまで早稲田大学の政治経済学部に合格できました。私が入った国際政治経済学科は、政治、経済、国際関係をまんべんなく学ぶため、びっくりするほど必修が盛りだくさん。ちゃんと調べて受験すればよかったと、ちょっと後悔もしました(笑)。でも、社会を理解するために必要な知識を幅広く学べ、大変でしたが授業は楽しかったです」

大学で「社会」について学びを深めるうち、堀口さんの中では「早く働いてみたい」という気持ちが醸成され、大学2年で早くもインターンを体験し、3年で本格的な就職活動をスタートさせた。希望したのは「世界に通用する会社」だった。「誰もが知っているインターナショナルな会社なら、トルコの家族にも自慢できるだろうと(笑)。割と単純な動機でした」

商社や金融系の会社を受け、複数社から内定をもらった。どの会社に行こうか。大学の選択以来、人生二度目の岐路で堀口さんが出した答えは、商社だった。

「3~5年ごとに部署も異動するようなので幅広い仕事ができ、ビジネスの世界を学べそうなところがいいと思いました。内定を頂いた三菱商事といえば『ザ・日本の企業』。正直、巨大な企業の中は一体どうなっているんだろうという好奇心もありましたね(笑)」

商社勤めからメディアの仕事へ

三菱商事に入社後は食品を扱うリテール部に配属された。主にスーパーやコンビニで扱う食品を管理して売るという、ビジネスの流れを整える仕事に従事した。流通から顧客データ管理までを担当し、ときには店舗でレジ打ちや品出しも経験した。ネットスーパ―の立ち上げにも関わり、注文が入ったらバックヤードで品物を集め、軽トラックに積みこむこともあった。

「現場作業に追われる毎日でした。小売業はお客様とじかに関わる仕事ですから、現場に立たないとわからないことも多く、どんな仕事にも無駄なことは1つもありませんでした。とはいえ、軽トラに乗ってガラガラ荷物を運ぶことになるとは就職前には思ってもいませんでしたけど(笑)。でも、すごく大きな経験でした。体力的につらいことも多かったけれど、学んだことは計り知れなかったです」

商社での仕事は楽しく、可能であればずっと続けたいと思っていた。一方、多方面にアンテナを張り、興味のある世界を極めることにも積極的だった堀口さんは、徐々にメディアでの仕事もスタートさせていった。きっかけは、入社1年目に出版した『最初のペンギン ストーリーでわかる! らくらく外国語習得術』という語学習得方法を紹介した本だった。

海外生活の長い堀口さんは、母語である日本語とトルコ語をはじめ、高校時代には英語とスペイン語をマスターし、大学時代には中国語も習得した。5カ国語を話すマルチリンガルなのだ。日本人は思わず「すごい」と驚くが、世界を見ると、実は「単一言語だけで生活できる日本のほうが珍しい」と堀口さんは言う。

「たとえば、自分の住む地域の言葉と国の共通語が異なる国もたくさんあります。そういう国では、食べていくために2カ国語以上話すのが当たり前。私も、勉強というよりも、いろいろな国の人とコミュニケーションをとるために、多くの言語を身に付けました」

とはいえ、堀口さんも英語習得には実は苦労し、泣きながら勉強したこともあったという。

「日本語とトルコ語は言語として共通点が多く、覚えやすかったのですが、英語は言語学的に離れた領域にあるので、ちょっと苦手でした。でも語学はやめた瞬間にできなくなるので、飽きずに続けられるよう、いろいろな方法を駆使しました。たとえば子ども向けの本や絵本を読んだり、繰り返しCDを聞いたり。言語習得のキーポイントは、たくさん聞いて話して、そしてたくさん間違えること。間違えると記憶に残り、覚えられます。読み書きは後からでいいので、まず聞いて話すところから始めるのがいいんです。今、日本にも、さまざまな言語のコミュニティがあり、その言語だけで話しながら食事するなど、楽しみながら言語を習得する場が広がっていますよね」

こうして、言語を楽しく身に付けるきっかけになれば、という思いで出版した本のおかげで、多言語が話せる堀口さんに注目が集まった。「20代前半の女性、商社の総合職」という条件も魅力だったのだろう。以来、メディアから声がかかるようになり、ときどきテレビなどに出て英語の勉強の仕方やグローバル人材の育て方、女性の働き方といったテーマで意見を発信するようになった。

しかし、当時はまだ「副業」を認める企業は少なく、堀口さんの場合も、テレビに出るためにはまず社内で稟議書を回し、さまざまな部署で押印してもらい、ようやくゴーサインが出るという状態だった。そういった手続きがだんだん息苦しく感じられるようになっていったという。

「会社もメディアの仕事もどちらも好きでしたが、両立は難しいとわかり、結局退社する道を選択しました。残念な気持ちもありましたが、あのまま残っていたら、どちらも中途半端になっていたかもしれません。今は腹をくくって自分を信じ、新しい世界に挑戦できているので、正しい選択だったと思っています。現在は副業を認める企業も増えています。政府も後押しをしており、多様性のある働き方に向けた可能性が広がっているので、今の人たちにはぜひ有効に活用してほしいですね」

常に学ぶことで進化を続ける

タレントになって約1年。仕事は忙しくも楽しいことが多く、気が付けばあっという間に時間が過ぎていた。しかし、自らの目線で時代をとらえ、発信していくことが自分の仕事だと考える堀口さんは、学ぶことを忘れたくはなかった。そんなとき出合ったのが東京大学のエグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)。年2回、秋と春に開講し、約半年間、金曜・土曜の週2日、東大の教授はじめさまざまなプロフェッショナルの講義が聴ける、画期的なプログラムだ。受講生の選抜は厳しかったが、堀口さんは面接を見事クリアし、講義に参加する権利を得た。

「このプログラムは、学びの分野が幅広いのが特徴です。最先端医療から科学技術、哲学、政治、経済思想まで、あらゆる教養を身に付けられ、おかげでかなり視野が広がりました。講師陣には、教授のほか各省庁の方や経営者などもいて、単にアカデミックなことで終わってないところも実践的でいいんです。講義の後には約40分のディスカッションもあり、とにかく楽しかったですね。当時、私はある番組で毎回ホットな話題を扱っていたのですが、講義から得た知識がとても役立ちました。これからもそうした番組と関わるチャンスはあると思うので、学びは続けていきたいですね。今はいろいろなことが細分化され、各分野の専門家になればそれで良し、とする風潮もありますが、ほかの分野とのつながりを持てば、そこから新たなイノベーションが生まれる可能性もあります。いくつになっても学ぶことは大事だと、つくづく感じますね」

興味のある世界には果敢にチャレンジし、さまざまなことを吸収して、ステップアップを続ける堀口さん。今後も、彼女ならではの目線で切りとった有益な情報を提示してくれるに違いない。そんな堀口さんに、「今一番興味があることは?」 と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「実は、この業界に入ったとき、最初に言われたことが『姿勢が悪い』だったんです。最初はびっくりしました。それまで誰も注意してくれなかったし、仕事さえできていれば姿勢が悪くても全然問題ないと思っていたので(笑)」

これをきっかけに筋トレをして、姿勢がよくなると、腰痛や肩こりも治ったという。

「姿勢って、実は人の体を左右する大事なことだったんですね。これは大きな発見でした。体がちゃんとすることは何よりの予防医学になるとわかり、以来、この分野をもっと極めたいと思うようになりました。働く女性の悩みにも腰痛や肩こりが多いと聞きます。健康で疲れることなく美しい、という働き方ができたらいいと思いませんか? そういう情報を発信していきたいし、また、私が何か画期的な商品を開発できたら面白いかもしれませんね(笑)」

堀口ミイナ
1990年9月、トルコのイズミルで生まれる。日本とトルコのハーフで、人生の半分を海外 (トルコ、パキスタン) で過ごす。母国語である日本語、トルコ語のほか、英語、スペイン語、中国語を話すマルチリンガル。早稲田大学政治経済学部卒業後は、三菱商事に勤務。2017年に退社し、タレントとなる。ワインエキスパート、小型船舶操縦士1級などの資格を保有。TOEIC960点。『しごとの基礎英語 Season5』(Eテレ)、『はやドキ!』(TBS)、『斉藤一美 ニュースワイド SAKIDORI!』(文化放送)に出演。
堀口ミイナさん

取材・文/合津玲子

写真/川崎聡子

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