時代を導く世界の女性リーダーたち

~バックグラウンドとその活動~

アメリカのピュー研究所によると、2016年における女性の国家指導者の数は対2005年比で約2倍の27人、国連加盟国193カ国のうち約14%の国に達した。

今でこそ女性リーダーはそこまで珍しい存在ではなくなっているが、 その先駆的存在として、1979年から1990年までイギリス初の女性首相を務めたマーガレット・サッチャー(1925-2013)がいる。

サッチャーは強硬な反共主義者だったが、それをソ連(現ロシア)がやゆしてつけた「鉄の女」というあだ名を自らの愛称にしてしまったり、英国の高インフレ率の理由を非効率な国営産業や混合経済の失敗にあるとし、高福祉の社会保障政策見直しや経済の規制緩和、インフラ産業の民営化を推し進めるなどして、政治家としてしたたかな面をのぞかせた。

反面、選挙戦に勝つためにダイエットをしてウイスキーの酒量を控えたり、執務の合間に夫のデニス氏の夕食の買い物に走ったりと人間味のある逸話も残し、ドイツのアンゲラ・メルケル首相やオーストラリアのジュリア・ギラード前首相等、各国の女性指導者に今なお敬愛される存在である。

ここでは、さまざまな経歴を持つ世界各地の女性リーダー6名を紹介する。

01. CHILE

ミチェル・バチェレ

外科・小児科医でチリの第34代、36代大統領。父親はピノチェト政権下、拷問死。彼女と母親も1975年に逮捕・拷問されたがオーストラリア、旧東ドイツに逃れ、フンボルト大学医学部に進む。1979年、軍政下のチリに戻り、チリ大学医学部に復学し、反政府活動を展開。1983年に同大卒業後、1990年の民政復帰を機に保健省入省。インター・アメリカ国防大学で軍事研究も進め、2002年から2004年までラテンアメリカ史上初の女性国防大臣を務める。2006年にチリ史上初の女性大統領に就任し、女性閣僚の登用に尽力したが、2010年、チリ地震に対する災害支援の遅れが批判される中、任期を満了。同年、UN Womenの初代事務局長を経て、2014年、大統領職に返り咲く。

在任:2006.3.11~2010.3.11/ 2014.3.11~現在

02. Croatia

コリンダ・グラバル=キタロビッチ

幼少期をアメリカで過ごし、地元の高校を卒業。1992年にザグレブ大学人文社会科学部の学士号を、2000年に同大政治科学部の修士号を取得。ハーバード大学ケネディスクールやジョンズ・ホプキンス大学の客員研究員を歴任。1992年、クロアチア科学技術省の国際協力担当顧問官となり、翌1993年に外務省に転籍。1995年から1997年まで外務省北アメリカ局長、1998年から2000年までカナダの公使参事官として現地駐在。2003年から2011年にかけて欧州担当大臣や駐米クロアチア大使等を務めた後、2011年から2014年までNATO初の女性事務次官補として広報を担当し、2015年、クロアチア初の女性大統領に就任。

在任:2015.2.19~現在

03. Estonia

ケルスティ・カリユライド

1992年、タルトゥ大学を優等で卒業。2001年、同大学から経営管理のMBAを取得。国営通信会社やエストニア貯蓄銀行で営業やプロジェクト・マネジャーの職を経て、2002年から2004年にかけて国営発電所初の女性所長を務めた。政治的には2004年から2016年まで欧州会計検査院のエストニア代表を務めた後、2016年のエストニア大統領選が混迷する中、ダークホースとして現れ、エストニア初の女性大統領に選出された。自由保守主義者で、国家介入の少ない強力な市民社会への支持と弱者への支援の重要性を強調し、LGBT(性的少数者)の権利や移民といった社会問題にはリベラルな姿勢を見せる。

在任:2016.10.10~現在

04. Liberia

エレン・ジョンソン・サーリーフ

選挙で選出されたアフリカ初の女性大統領で、2011年のノーベル平和賞受賞者。モンロビアで経済学を学んだ後、アメリカ・ハーバード大学で経済学と公共政策の修士号を取得。自国の部族間闘争に巻き込まれ自宅監禁も経験したが、その合間にシティバンクで実務経験を積む。リベリア大統領就任後は、国民融和のため野党政治家を複数閣僚に任命し、有能な女性閣僚も数多く起用。膨大な海外債務の削減努力が国際社会に認められる。汚職を絶対許さないとの公約実行のために制度整備にも着手したが、自身の兄弟が汚職疑惑で閣僚辞任する不祥事に直面。

在任:2006.1.16~現在

05. Nepal

ビディヤ・デヴィ・バンダリ

学生時代から政治運動に加わり、1980年にネパール共産党に入党し、1981年に結婚。その後政治から遠ざかっていたが、1993年に夫が不審な交通事故死を遂げたのを機に、政界復帰。1994年のネパール総選挙で当選後、2009年から統一共産党の副議長となり、同年5月から2011年2月まで国防相を務め、2015年にネパール初の女性大統領に選出された。ただし王政廃止に伴い2015年に公布された新憲法に、下院議員の3分の1は女性が占めることや大統領を儀礼的な国家元首とし、大統領・副大統領のいずれか一方は女性とするという記載があるため、彼女の選出は驚くものではなく、儀礼的なものだと一般的に解釈されている。

在任:2015.10.29~現在

06. Taiwan

蔡英文

父親の勧めで国立台湾大学法学部を卒業後、アメリカ・コーネル大学ロースクールで法学修士号を、英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士号を取得。国民党政権下の1990年代に行政院や経済部の委員などを務めた後、2000年中台関係の政策を担当する行政院大陸委員会の主任委員に就任。2004年に民進党に入党し、2006年から2007年まで行政院副院長 (副首相) と消費者保護委員会委員を兼務。2008年、民進党初の女性党首に就任後、2016年、台湾初の女性総統に選出される。諸外国との関係構築・推進に努め、昨年12月にはアメリカ次期大統領 (当時)のドナルド・トランプ氏と電話会談を行い、耳目を集めた。

在任:2016.5.20~現在

文/目加田みちる
写真/Flickr, 05のみAP